WEBシリーズ
「E-LINK」最新号&バックナンバー
社団法人 日本能率協会
日本能率協会様のご協力により、E-LINKから技術者の皆さんに役立つ「セミナー」を提案しています。
特別企画・ものづくりのまちで人材育成 子どもたちの笑顔に確かな手ごたえ。産学官連携事業 次世代ものづくり人材育成事業
 世界を舞台に活躍する製造業が集まるものづくりのまち、静岡県湖西市では、将来を担う子どもたちにものづくりのおもしろさ、楽しさを知ってもらうために、産学官連携で「次世代ものづくり人材育成事業」を行っている。今年の夏のカリキュラムは、@市内企業の工場を見学する視察研修、A豊橋技術科学大学ロボコン同好会によるデモンストレーションを通した体験学習、Bリモコンロボットを親子で製作する親子ものづくり体験、の3本立て。その中から今回は、熱気と興奮に包まれた「親子ものづくり体験」の様子をレポートする。

周囲の心配無用。自分の頭で考え、夢中で手を動かす小学生たち。



説明図をにらみ、目と手と頭をフル稼働させてマイロボットを完成させる。
 「次世代ものづくり人材育成事業」は、ものづくりのまち、湖西市が、将来を担う子どもたちを育成すべく、産学官連携で取り組んでいる事業。ものづくりの体験等を通して楽しさや感動を味わってもらい、将来の夢へとつなげることを目的としている。この夏、湖西市では3つのコースを企画した。一つ目は市内に拠点を置く企業の工場を見学する視察研修、二つ目は2009世界大会に出場した豊橋技術科学大学ロボコン同好会によるデモンストレーション、そして三つ目が今回の親子ものづくり体験。全コースで延べ300人以上の小学生(3年生〜6年生)が参加し、ボクシングロボットづくりにチャレンジした。
 8月21日(土)、真夏の太陽が照りつけ、蝉時雨がにぎやかな湖西市郊外。会場の湖西地域職業訓練センターには約100組の親子が朝から続々と詰めかけた。真っ黒に日焼けした小学生たちは実習室へ入ると、テーブルに置かれたサンプルのロボットに興味津々。主催者のあいさつの後、TAMIYA製「2チャンネルリモコン・ボクシングファイター」製作キットが配られ、子どもだけでなく、お父さんたちも少年の眼差しで一斉に身を乗り出した。この日は単独参加の小学生もおり、多くのスタッフが指導員としてスタンバイ。各々のテーブルを回って、ニッパーやドライバーの使い方をアドバイスしたり、スムーズに作業できるように時折、手を貸したりした。対象年齢のキットを選んだとはいえ、難しくて降参しないか、途中で飽きて投げ出さないかなど気を揉んだが、そこは心配無用。子どもたちは説明図を指で追い、サンプルのロボットを参考にしつつ、真剣に手を動かしていた。

「お父さん、ボクにやらせてよ」「待て、待て、もうちょっと」



教え合う兄妹に目を細めるお母さん。「普段の勉強もこれぐらい集中してくれると…(笑)」。
 ものづくりは人を虜(とりこ)にする。子どもが主役であることは十分承知しているのに、助け舟を出したお父さんがついのめりこんで、「僕にやらせてよ」とせがまれる一幕も見受けられた。ひとつのネジを締め終えるたびに、固定具合を確かめて「これでよし」とつぶやく几帳面な男の子もいた。一方、女の子はどうかというと、これまた負けてはいない。細い指を器用に動かして、順調に部品を組み立てていく。兄妹の作業を見つめるお母さんに感想を聞いてみた。「お兄ちゃんが妹を助けてくれるので、私の出番はありません(笑)。こうして見ているだけでも、どんどん形になっていっておもしろいですね」。


ロボットは男の子だけのものじゃない。未来の女性エンジニアなるか!?
1時間半が過ぎた頃、あちこちからパタパタパタパタ、カタカタカタカタというボクシングロボットのパンチ音が聞えてきた。「できた!」「やったあ!」という快哉が飛び交う。試運転もそこそこに、対戦を始める子どももいる。作業中はその集中力に圧倒されて声をかけるのが憚られたが、今なら大丈夫。感想を聞いてみた。「思ったより簡単。もっと複雑なロボに挑戦したい」「ボクは難しかったな。お父さんがいなかったらできなかったかも」「ネジをしめたら手が痛くなっちゃった」「ロボットに名前を付けたい」…。 誇らしげな子もいれば、はにかむ子もいるが、全員に共通しているのは“やり遂げた”という思いだ。リモコンのボタンを押し、ロボットが動いた瞬間、だれもが瞳をパッと輝かせる。そして、うれしそうな笑顔で親を見上げる。そこには自分でつくったからこその新鮮な感動がある。

遊びの要素を組み込み、ものづくりの先にあるものを体感させる。



始まる前から熱気ムンムン。この後、会場はものづくり一色に染まった。
「親子ものづくり体験」はボクシングロボットを製作して終わりではない。全員の完成を待って、タイトルマッチを開催するというお楽しみ付きだ。ルールは簡単。ストレートやアッパーを自在に組み合わせ、相手を倒したファイターの勝ちである。まず、テーブルごとの予選からスタート。組み立て式のパンチングボウルでウォーミングアップし、リングに立つと、子どもたちは2チャンネルリモコンボックスでファイターを操作する。ゲームで慣らした指先を巧みに動かし、タイミングを測ってパンチを繰り出す。決勝トーナメント進出がかかるこの戦い、負けて悔し泣きする小学生もちらほら。お父さんの大きな手で慰められ、「××くん、ボクの分まで頑張れよ」と応援する姿がさわやかで微笑ましい。
決勝トーナメントはさらにヒートアップ。三つ巴の決勝戦では、みんなで輪になってテーブルを囲み、勝負の行方を見守った。女の子3人組は自分がつくったロボットを空中高く掲げてパタパタと動かし、チアガールさながらに元気な声援を送る。見事、チャンピオンベルトを獲得したのは近藤優眞君(5年生)。「まさか優勝できるとは思わなかった。つくるのも遊ぶのもおもしろくて大好き」と最高の笑顔を見せる。優勝賞品のガンダム・プレミアム製作キットを大切そうに抱え、「家に帰ってゆっくりつくりたい」と声を弾ませた。
 湖西市にはものづくりを学び、実際に体験する場がたくさんある。この事業のように、産学官が連携することで、未来を担う子どもたちにものづくりの楽しさや感動を伝えることができる。同市ではこうした機会を数多く提供すると同時に、地域、家庭、学校が一体となって、未来に伸びる芽を育んでいきたいと考えている。ものづくりのまちに生まれ、ものづくりとともに育った子どもたちが、これからどのように成長していくのか楽しみだ。